チタンアクスルシャフトとチタンボルトを作る理由

●チタンの特性 (材質別機械的特性)

201728205324.jpg
 
上の表は金属の引張強度や0.2%耐力に関してデータをまとめた表である。
ネジなどの強度部材として使用する際に重要なのは、引張強さと0.2%耐力、そして疲労強度である。
S45Cという一般的に部品に使われる鋼は、引張強度が570N/mmで0.2%耐力が345N/mm。
これに対してボルトで使われるステンレス鋼のSUSXM7 A2-50は
引張強度が500N/mmに対して0.2%耐力が210N/mmしかない。
 
 
201728195043.gif
 
引張強度は最大応力のかかるところ。
表中の降伏点は、0.2%耐力または降伏点である。
S45Cの場合は降伏点が61%であるのと比較すると、 SUSXM7は42%しかないことがわかる。
鋼と比較すると降伏点も低い。
上の表の様に、金属材料には設計範囲というものがあり、これを超えて設計することはできない。
つまり、いくら引張強度が高くても0.2%耐力が低い材料は、
同じ形状や構造でもその性質から十分な強度が担保できないことになる。
 
 

 

 

●チタンボルトやチタンアクスルシャフトが優れている理由

下の表は主要素材別に引張強度と0.2%耐力を抜き出したもの。

SCM435 800 640
アルミA7075 510 440
純チタン 340 215
Ti-6Al-4V 895 825
 
 
 
 
 
 
 
64チタンが強い理由はここにある。
SCM435は通称クロモリ綱と言われているが、これは十分な強度を持っている。
一番下がいわゆる64チタン。
クロモリ鋼を凌ぎ、0.2%耐力もクロモリの80%に対して92%である。
64チタンが安心して使えるのはこういうことなのだ。
逆にクロモリ鋼の場合は、S45Cの質別8.8の鋼とあまり変わらないと言うことになる。
SCM435を部品として使用するならば、質別を明らかにしなければならない。
 
この引っ張り強さと0.2%耐力の関係があり、ステンレス鋼は自動車やオートバイの強度部品に使われることはあまりない。
市販されているステンレスのネジなど、素材が明確でないものを使用するのは危険なのでやめた方が良い。
それ以外にもステンレスには問題がある。
ところがSUS630 H900というステンレス鋼がある。
これは引張強度が1310で0.2%耐力が1175もある。
実に耐力は90%。
しかしこれは特殊な処理をしているためである。
大切なことは、金属それぞれの特性を良く理解して使用すること。
そしてその素材がどのような処理をされているかである。
つまり機械部品として使用する場合、この金属の種類と質別がどのようなものか明確で無い場合、使用するのを避けた方が良い。
アルミ合金材など、かなりの種類の合金がある。
意外に多いのがA7075材で作らなければならないところを、使用していないケース。
見た目ではほとんど判断できず、使用の過程で折損したり破断したりすることがある。
 
 
 
 
 

●チタンのもう一つの特性

チタンのヤング率

金属に力を加えて変形させると、加えた力が小さいときには元の形に戻るが、力が大きいと元には戻らない。
前者を弾性変形と言い、後者を塑性変形という。
弾性変形の範囲内で、単位歪みあたりの応力の増加を決める定数をヤング率という。
チタンのヤング率は100GPa程度で、金属の中ではマグネシウムやアルミに次いで低く、鋼の半分程度である。
つまり、チタンは硬くて強いと思っていたら大間違い。
実はしなやかで曲がりやすい素材。
しかしこのしなやかさは、独特のバネのような特性を出し、乗り味に大きく貢献する。
 
 

チタンの耐食性

チタンの耐食性はチタン表面を被覆する強固な酸化膜に起因する。
チタンは薄い酸化物によって不動態膜を作る。
この不動態膜は食塩水などのような塩化物イオンやほとんどの有機酸、
更に硫化水素や亜硫酸ガスに対しても耐食性が優れているのだ。
このため、自動車部品やオートバイ部品が通常置かれる環境において、錆が出たり劣化することがないのだ。

 

チタンの疲労強度

それからもう一つ、金属には疲労強度というものがある。
材料に負荷する応力が弾性の範囲内であっても、それが繰り返されると変形すること無しに破壊される。
これを疲労破壊と言う。
チタンの場合は応力拡大係数が他の構造用金属材料に比べて小さいために、亀裂の成長は小さくなる。
またチタンは引張強さに対して疲労強度が極めて高く、疲労比(疲労強度/引張強さ)は0.5~0.6を示し、
構造用材料の中では比較的疲労強度が高いとされている。
ちなみに鋼の疲労比は0.2~0.3程度なのである。
 
 

チタン部品が高価な理由

チタン材料は素材が高いということもあるが、その加工の過程もコストがかかる。
難切削材と言うこともあり、油脂や加工工具の損耗摩耗も激しい。
工作機械に任せてその場を離れることができず、機械の傍らでずっと耳を澄ませて音の変化を聞いている必要がある。
途中で音が変われば、すぐに摩耗した工具の交換をしなければならない。
また大量に生産するからといって、加工速度を上げるわけにはいかない。
速度を上げてしまうと途中で焼き付きを起こしたりして、作業を中断することになる。
それから、チタンの溶接には不活性ガスの中で作業をする必要がある。
溶接の過程で酸素や窒素、水素が取り込まれてしまうと、強度が出ない。
溶接中はもちろんであるが、溶接後も基材を大気から遮断して接触を防ぐ必要がある。
 

これらの事から、強度が必要で、軽量で、耐久性を求められる強度部材として、チタン合金は最適と言えるのである。